1.はじめに
大昔から、石材とともに最も身近に存在する建築材料であった木材は、誰でも手軽に使える材料として重宝されてきた。しかし、鋼やコンクリートなどの工業材料の出現により、木材は、材質的にバラツキが大きい工学的でない材料とレッテルを貼られてしまった。しかし、木材のもつ不思議な魅力は、エンジニアの心をくすぐり、集成材をはじめとするエンジニアードウッドとして工学的な材料として復活させた。
2.建築材としての木
木材は、石材とともに大昔から建築に用いられる材料として、手軽に入手できる素材であった。
垂直材(柱)−水平材(梁)の接合部の一番手軽なものは、二股に分かれた枝を持つ木材であったし、接合もまた植物系の材料であるツルなどが用いられた。こうして誰でも、手軽に入手出来る材料であったため、人は木材の耐力的な使用限界を感覚的に認識するようになったのかもしれない。
しかし、金属、コンクリートなど多くの工業材料の出現とともに、木材は、材質的にバラツキが大きく、工学的な立場からは、あまり好ましくない材料としてとらえられるようになってきた。
その反面、自然材料として、人の姿、顔立ちが一人一人違うように、木もまた厳密には同じ木肌のものは二つとして存在せず、趣味性にとむ材料として好まれてきた。こうした趣味性に富む材料のため、その取り扱いには、職人文化とあいまって、感覚重視の科学性を軽んずる傾向におちいりやすくなってしまった。
3.木材の強さ
木材は、手軽に加工でき、弱い材料と見られがちであるが、決してそういうわけではない。
強度を比重で割った値を比強度と呼ぶ。強度(tf./m2)で比強度は自重によって潰れる限界の最大積み上げ高さ(m)を表す。
例えば、岩石の比重はおよそ2.8で強度は12,000〜15,000(tf/m2)であるから、最大積み上げ高さは5000mとなる。これは、等断面としたときの限界であるが、錐形を仮定するとその3倍の15,000mとなる。自然界に存在しうる山の最大高さの理論的限界が、ほぼこの位ということになる。鋼は、比重7.85で強度は40,000(tf/m2)であるから、等断面での限界高さは約5,000mとなり岩石とほぼ同じである。
ところが、木材は比重0.4〜0.5程度しかないのに、5,000(tf/m2)の強度を有するから、等断面のとき10,000mとなり、錐形では30,000mにも達する。このような意味では、木は決して弱い材料ではなく、たいへん強い材料に属するものである。
木材の中での強さはというと、建築に主に用いられる木材は、樹種により、その強度が分類されている。表1にその分類と許容応力度を示す。(値は,旧基準法の値を用いており,現基準法では各樹種ごとに値が決められている.)
針葉樹では、知名度の高いヒノキは強度で2番目に、スギは強度で1番下に分類される。近年、盛んに用いられるベイマツは、強度では、一番上に、スプルースは一番下に分類される。
広葉樹では、ケヤキなど針葉樹に比べて比較的強度が高くなっている。
| 種類 | 長期許容応力度(kgf/cm2) |
| 圧縮 | 引張 | 曲げ | 剪断 |
針 葉 樹 | アカマツ、クロマツ及びベイマツ | 75 | 60 | 95 | 8 |
| カラマツ、ヒノキ、ヒバ及びベイヒバ | 70 | 55 | 90 | 7 |
| ツガ及びベイツガ | 65 | 50 | 85 | 7 |
| モミ、エゾマツ、トドマツ、ベニマツ、スギ、ベニスギ及びスプルース | 60 | 45 | 75 | 6 |
広 葉 樹 | カシ | 90 | 80 | 130 | 14 |
| クリ、ナラ、ブナ及びケヤキ | 70 | 60 | 100 | 10 |
4.木材と木質材料
これまでは、山から伐り出された製材されただけの木材が主流であったため「木造建築」=「製材を用いた建築」を意味していた。しかし、工業技術の進歩は、自然素材である木がもつ狂いやバラツキの大きさなどの欠点を除去する方法をあみだした。木材をいったん木片に加工し、接着剤などで再び集積することにより、木材の欠点を除去あるいは分散させて木材の長所を引き出すことに成功した。こうした、素材を木質系材料、木質材料(Wood Based Materials, Wood Composite Materials)と呼ぶ。木質材料には、木がもつもともとの性質をもったものから、別の素材として生まれ変わったものまであり多種多様である。こうした、木質材料は、製材そのものの性質のうち、木のもつ長所をある1点に絞って特化することでその特徴を明確にしている。
5.エンジニアードウッド
これまで、自然素材として、その性能のバラツキに悩まされ続けた木材のうち、強度性能が工学的に保証された木材・木質材料をエンジニアードウッド、またはエンジニアリングウッドと呼びEWと表す。EWは、工業的に生産されたものと言う意味ではなく、製材でも工学的な手法によっていろいろと検査を行い、強度性能を保証した機械的強度等級区分製材MSR材(Machine Stress Rated)や、製材を組み立てたメタルガセットトラスなどはEWに属する。逆に、工業製品でも、許容応力度が与えられていない造作用の合板、パーティクルボード、MDFなどは、EWとは呼ばない。
5.さまざまな木質材料
木質材料は、先に述べたように、木材のもつ長所を1点に特化することで、それぞれが、その特徴を明確にしている。
ここでは、木質材料を線材と面材にわけて整理してみた。
5.1 線材
集成材
木質構造のうち線材で最も知名度の高いものが集成材である。集成材は、原料の割れなどを欠点を取り除いた厚さ2〜3cmの小角材(ラミナ)をその繊維方向を互いに平行にして、接着剤で重ね合わせたものである。長さ方向は、フィンガージョイントと呼ばれ、互いのラミナをギザギザにカットして組み合わせる。簡易なものはこのギザギザのないスカーフジョイントで継がれる。
構造用集成材は、外側ほど等級品質の高い(強い)ものとなっており、製材のほぼ1.5倍の曲げ強度を有することができ、積層枚数を多くすることで原料のもつ欠点を分散させ、品質を安定させている。
また、積層することにより、製材より手軽に大きな断面と長さを自由につくりだしたり、積層時に材を曲げることも可能で、アーチなどの湾曲集成材も作成できる。
最近では、より高性能の集成材をめざして木材よりも軽く強度性能の高い、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などを合わせたシートを最外層に接着した繊維強化集成材も開発されている。
構造材ではないが、間伐材を用いた台形状に加工した木材を接着した台形集成材、材料の節約と力学的な合理性からさまざまな断面形状をもつ中空集成材などもある。
LVL(Laminated Veneer Lumber)
集成材より薄い2〜4mm程度の単板(ベニア)を繊維方向に積層接着した単板積層材を、LVLとよぶ。同じ単板(ベニア)を用いる合板と異なるのは、積層する際、繊維の方向を平行にするところにある。原料となる材種は、ベイマツ、ラジアタパインなど。
PSL(Parallel Strand Lumber)
単板を、幅16mm、厚さ2〜4mmの大きさで繊維方向に細長く切断された削片(ストランド)を接着し、成型したもので、LVLより強度のバラツキがなく製品寸法の自由度は高い。原料もLVLの製造過程で発生した端材を利用することができる。材種は、針葉樹のダグラスファーやサザンパイン。
スーパーウッド
廃プラスチック(油のボトルやビニルシートなど)のチップと木粉でつくる木質系材料。溶融した木粉とチップを押し出して金型で成型、ヤスリをかけて仕上げる。水に強く耐久性に優れた素材である。表面の木目は印刷による。金型をかえることにより、自由に断面形状をつくることができる。
編成材
間伐材の丸太を、片側を八角形断面、反対側を四角形断面に加工し、接着剤で貼りあわせた72cm×72cm×400cmの木の塊(インゴット)から、自由なサイズに切り出して用いる材。現在、建築基準法上はムク材として扱われている。材種は、スギ・ヒノキ
SST(Succeeding Serviceable Timber)
割裂片積層材とよばれ、日本独自の木質材料である。
間伐材や小径木、端材を厚さ8mm、幅5mmの削片(ストランド)に切断、これを接着してマット状にする、さらにこれを接着し蒸気プレスで成形する。ストランドを圧密化することにより強度を増している。樹種は、スギ。
5.2 面材
合板(Plywood)
厚さ2〜4mm程度の単板(ベニア)を繊維方向に直交させながら奇数枚接着させたものをいう。
いわゆる、ベニアは合板を構成する単板のことをいい合板とは、別の意味である。
単板を積層することにより、木材の膨張・収縮などの木がもつ欠点や、繊維の方向性による異方性(方向により性能が異なる性質。木材の場合、繊維方向と繊維直交方向で大きく性能が異なる)を解消し、広い面積をもつ薄板を作成することができる。主な原料は、ラワンを代表とする南洋材であったが、現在では、北米、北欧の針葉樹や、国産のカラマツ、スギなどが用いられる。
特殊な原料を用いた合板は、それぞれ独特の性能を有し、重宝されている。
原料にシナを用いたシナ合板は、加工のしやすさ、その表面の木目の美しさ・小口の美しさから、木工の精密加工の木型、高級家具などに用いられ、耐久性に優れたバーチ(シラカバ)合板は、船の甲板やトラックの荷台に利用される。
構造用ではないが、この他にも、芯材(コア)に蜂の巣状のペーパーハニカムや紙のロールコアを用いて軽くした軽量合板、小割材を接着して集成材とし、それを心材として両面に合板を貼り合わせたランバーコア合板があり、家具や棚板に用いられる。
OSB(Oriented Strand Board)
丸太から削片(ストランド)をとり、機械などで繊維方向を揃えるように配列した層を、液体の樹脂接着剤で圧締成型した木質ボード。削片は、木の性質をもったまま圧締されるので、水を含むと膨潤するため、水や湿気に弱い。しかし、ストランドをさらに薄くし、接着剤を改良することによりこの欠点を排除したOSBも開発されている。
LVB(Laminated Veneer Board)
LVLと同様に、単板(ベニア)を繊維方向に積層接着し面材とした材料。
パーティクルボード(Particle Board)
コンクリートの型枠などを砕いた、切削片(パーティクル、チップ)に樹脂接着剤を塗布し熱圧成型した木質ボード。表面は芯よりも細かなもので構成される多層構造で、小口の切削面は芯の部分で大部荒くなる。長期荷重に対するたわみが大きいため、素材での使用には注意が必要であるが、単板貼りパーティクルボード(コンポジットパネル)は、単板の繊維方向に大きな曲げ性能を持ち、床下地や野地板材などに適している。
繊維板(Fiber Board)
蒸気解繊した木材繊維(ファイバー)に合成樹脂を加えて成型、熱圧した木質ボードで、密度によって3種類に分けられる。繊維レベルまでほぐして加工するため、原料のもつ節や割れ、腐れなどの欠点をなくし、異方性を持たない均質材料となる。
密度0.35g/cm3未満のものを軟質繊維板(インシュレーションボード:Insulation Fiber Board)と呼び、密度が低く、多孔質であるため、断熱性、吸音性、調湿性に優れている。密度0.35〜0.80g/cm3のものは中質繊維板(MDF:Medium Density Fiber Board)と呼ばれ、表面は硬く平滑で、小口面も緻密なので加工面がきれいな仕上がりとなる。家具やシステムキッチンから外壁、屋根などの下地に使われる。密度0.8g/cm3以上のものは、硬質繊維板(ハードボード:Hard Board)と呼ばれ、硬質で曲げ強度も大きい。
5.3 その他
その他、木材からつくられる材料ではないが、日本人にとって身近な植物材料の1つに竹がある。広い意味では、木質材料の1つでもある。独特の素材感や耐水性などの性能も魅力で、フローリング材や、単板を幅はぎし積層した集成材などの建材が提案されている。
また、飼料・食品材料の高粱(コーリャン)の茎を、すだれ状に編み込んだものも単板とし、それをホットプレスで固めたボードも、独特の素材感をもっている。
6.まとめ
自然から直接に受け取った材料である木材は、それ自身、ある程度の堅さをもった強靱な棒状の曲げ材であった。その反面、木の柔らかさから生まれた容易な加工成形性をもち、扱いやすい材料であった。
しかし、いつしか鋼やコンクリートの工業材料に凌駕されてしまった。
しかし、時を経て再び、加工技術の進化により、木質材料として復活してきた。無垢の製材よりも強く、曲線や自然界では困難な長い材、太い材、厚い材を出現させ、大規模で快適な空間を可能にする木質材料。間伐材や小径木、廃材を利用する木質材料。強度・性能が安定した木質材料。自然の力と技術を合わせ進化する木質材料が、これからも生まれてくるだろう。
[参考文献]
「デザイニングウッド 木材進化系」,INAX出版,2000
「設計の基本とディテール 木のデザイン図鑑 建築・インテリア・家具」,エクスナレッジムック,2001
「建築知識2001年5月号」,エクスナレッジ,2001
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