|
Wooden
Structural
R&D |
|
小断面木造の可能性2 マッシブホルツ
![]() 建物は,新興住宅地に建つ緑地公園に面した集会場である.周辺住民とのワークショップを通して,集会室の使い方を検討する中で,着付けや料理教室をやりたいとか,本を持ち寄って図書館のようにしたいとか,いつも人がいられるようにしたいなどの要望が集まった.本を持ち寄るのだったら壁を最初から本棚としてつくろうという話になり,壁は2×12材(38mm×286mm)を使用した本棚状の壁となった.メインの空間は内部と外部を一体的に利用できる多目的スペースとするための無柱空間が要求された.
この屋根の最大スパン7.5mは,鉄骨やRCでは,問題にならないようなスパンであるが,在来構法の木造としては大きなスパンとなる.通常の製材では,この長さの材を入手するのは困難であり,集成材などのエンジニアリングウッドでは,材料が高価になってしまう.そこで,壁に用いた長さ4mの2×12材を用いることを考えた.この材は,一般的に市場に流通している材で,比較的安価な材料である.この材を立てて,順番にずらしながら,隣通しを釘打ちし,何十枚も並べることにより,最大7.5mのスパンを架け渡す木製の平板が完成した.
一般に,木構造のモーメント接合は,金物とボルトを用いた大げさな物になりがちであるが,これは,接合部を小さくしようとするために,接合具(ボルトやドリフトピン部分)に生じる力が大きくなるためである.しかし,この建物では,接合部の長さが長いため,接合具に発生する力は小さくなり,数本の釘打ち程度でも十分可能となり簡素な接合部とすることができる.接合部が長いため2次応力が問題になるが,接合部は通常部分の倍の断面があり,十分な耐力を保持することができる.また,木造の接合部で問題となる釘やボルトを用いたときに生じる「初期ガタ」や「スベリ」も,接合部の腕の長さが長いため「ガタ」や「スベリ」の絶対値が同じでも,結果的に部材としての回転角は小さくすることができる.
また,こうして貼り合わされた,屋根材は自身の負担幅が小さいため,材せいを小さくすることができる.今回は,1本置きに材をずらして貼り合わせたため,有効断面は,屋根版の半分の幅になってしまうが,隙間なく貼り合わせていけば,有効断面は,屋根版の幅全体になり,木製のフラットスラブとすることができる.
さらに,このように部材が細かく並ぶ場合には,マルチプル効果も期待できる.木材のように「ばらつき」がある材料では,部材1本の統計的下限値よりも複数本の平均値についての統計的下限値の方が高くなることが一般的に知られており,このような効果をマルチプル効果という.これは,比較的小さい間隔で配置され,面材などにより互いに応力が伝達される場合に,材料強度の大きい部材の荷重負担が大きくなるように曲げ応力が再分配されることによって生じると考えられている.つまり,材料強度の「ばらつき」が平均化されるということを意味する.これは,これまで材料の「ばらつき」が短所とみられてきた木材に適した構法といえるともに,システム係数を用いて材料の強度の割増を行うことも可能であり,特別に上質な材を必要としない.
木材の「ばらつき」は,材料強度に限ったものではない.2×12材は厚さ38mmのひき板のため乾燥効率は一般的な製材に比べて優れている.といっても木材である以上,その寸法には「あばれ」や「ばらつき」がある.厚み方向だけに限っても,公称38mmの板も10枚も重ねていくと1mm以上のずれが生じてしまう.こうした材の寸法の「ばらつき」は,材の重なった部分にボルトを貫通させ締め付けることで調整を行った.もともと,あまり正確な寸法を必要せず,並行に並びさえすればよい屋根版であることから,こうした方法を採用したが,これを応用して,材を隙間なく並べて直交方向に貫通ボルトでプレストレストを導入することにより,材と直交方向にある程度の剛性を持たせるようなことも可能である.
今回の建物では,2×12材の上面に合板を釘打ちすることにより,水平構面の剛性を確保したが,こうしたプレストレストの導入によって,水平剛性を確保することも期待できる.
もともと,木材は構造材料であるだけでなく,そのまま吸保湿性の優れた仕上げ材料であり,同時に優れた断熱材でもある.木材をこのように,隙間なく並べていけば,断熱材としての機能を発揮することも可能であろう. 現在の設計では,構造体としてはできるかぎり効率のよい使い方をすることが前提条件とされ,より細く,より薄く,どれだけ材料を少なくすることができるかが主要な目的である.しかし,今回の建物のように,木のかたまり(マッシブホルツ)のような構造は,一見,材料の無駄遣いと見えるが,この部材が,構造体としてだけでなく,他の役割を併せ持つことができれば,新しい木構造の可能性が開けてくるはずである.(KOS) |
Copyright Jul.31.2002 KOS